教育講演 2

人工腎臓の最新の進歩

水口 潤
社会医療法人 川島会 川島病院

 人工腎臓は多くの患者の延命に貢献してきたという点で大成功を収めたと言える. 人工腎臓のシステムは分子拡散と限外濾過を応用したディバイスであるダイアライザやヘモダイアフィルターを中心に,透析液,バスキュラーアクセス,患者監視装置 からなる.まずシステムの中心となるダイアライザやヘモダイアフィルターに使用される膜性能については,かつてはシャープな分離特性が求められていたが,最近は細孔径のブロードな分布を活かし,分子量の大きな溶質を除去する工夫もされている.さらに,膜の素材が持つ化学的特性を活かし高い吸着能を持つ膜や,膜表面の凹凸を小さくし高い蛋白分画特性と濾過性能の経時劣化を少なくした膜,中空糸膜表面に親水性ポリマーを配置し抗血栓性や膜性能の劣化の少ない膜なども開発されている.急性血液浄化領域で行われる持続的血液浄化治療では,吸着能は大きな利点とされている.これらのディバイスを使用した治療モードとしては,従来から主として行われている分子拡散を利用し小分子量の溶質除去を主体とする血液透析(hemodialysis; HD)に加え,分子量1万程度までの溶質を,限外濾過流量に等しい速度で除去することができる血液濾過(hemofiltration; HF)を併用した血液透析濾過(hemodiafiltration; HDF)が行われるようになっている.HDFでは透析液のほかに濾過量に見合う専用補充液を補う必要があるが,2010年に透析液を無菌的に調製することを前提としたHDF専用の患者監視装置が認可され,近年では透析液の一部を補充液として使用する on-line HDFが主流となっている.一方,透析液に関しては,HDF専用の患者監視装置の認可に先んじて,2008年には日本透析医学会より透析液水質基準が発表された.これらの値は標準透析液では局方精製水,超純粋透析液では局方注射用水に相当するものである.
 大きな臨床的成果を収めてきた人工腎臓ではあるが,生体腎には濾過だけでなくホルモンの分泌能や再吸収機能も存在する.尿細管細胞を利用したバイオ人工腎臓や再生医療も試みられているが,生体腎は複雑な臓器であり,実用化にはまだまだ時間を要すると考えられる.

CLOSE
© 2018 第8回中四国臨床工学会. All Rights Reserved.
Produced by オンライン演題登録システム・査読システム|演題登録.com|